広島市内で建設コンサルタントとして働きながら、建築家・デザイナーとしても活動する鈴木知悠さん。そんな鈴木さんが、今いちばん気になる人と一緒に、広島県内のあちらこちらを歩きながら、これからの暮らしについて肩肘張らずに考えてゆく本連載。

前回に引き続き、舞台は「風待ちの島」とも呼ばれる大崎上島。

アウトドアショップで働きながら、朝活ランニングコミュニティ「7hours club」を主宰する川路高史さんとともに、今回はバードウォッチングではなく、島内をめぐりながら土地や暮らしの記憶を辿っていきます。

人と人をつなげる観光案内所で、島歩きのヒントを

まず向かったのは、白水港のすぐそばにある「大崎上島町観光案内所」。観光で訪れる人だけではなく、町民の方がお茶を飲んだり、編み物をしたり、地域の憩いの場になっていると言います。スタッフの反岡さんにもお話を伺ってみました。

反岡さん:こちらのボードでは、観光客や島のひとたちが、「私だけのお気に入りの場所」だとか、「普段こういう視点で島を歩いています」みたいな価値観だったりを、自由に共有できるようにしていて。イラストでも写真でも文章でも漫画でも、もう勝手につくって、勝手に貼って行ってください、というスペースになっています。

川路さん:これはすごいなあ。どれもめちゃくちゃ気になります。

反岡さん:そうやって、みんなの視点を共有することは、自分なりの「この島の楽しみ方」を見つけるきっかけになると思うんです。

鈴木さん:ちょっと建築のリサーチにも近いアプローチだなあ……。あ、こっちのイラストは、例の木造5階建て家屋を描いていますね。

    反岡さん:ご存じでしたか?

    鈴木さん:たしか、遊郭の跡地なんですよね。今日もこれから行ってみたいと思ってたんです。

    反岡さん:ぜひぜひ!またお時間があったら、ウチにもぜひ立ち寄ってみてくださいね。

      100年続く商店で聞いた、かつての花街の今と昔

      観光案内所をあとにしたふたりは、鈴木さんのお目当てのひとつである「木造5階建て」を探しに、大崎上島の東岸部に位置する木江町をめざします。かつて「潮待ちの港」として近代以降に発達した町で、造船業にくわえて花街が栄えたことでも知られているのだとか。

      鈴木さん:たぶん、このあたりだと思うんだけど……。この建物かな?でも5階建てじゃないし、取り壊し中になってますね。

      川路さん:向かいの商店の人にちょっと聞いてみましょうか。すみませーん……

      店主さん:はいはい、こんにちは。そんで、どうしたの?

      鈴木さん:このあたりに、古い木造の5階建てがあると聞いて、ちょっと調べてるんですけど。

      店主さん:ああ、あれはね、もうひとつ向かい側の通りにありますよ。このあたりにも四階建てとか三階建てのがあったけど、もうほとんどなくなっちゃって。ウチの前のも、ご覧のとおり壊すんですよ。潰れかけちゃって危ないから。

      川路さん:お父さんのお店も、すごく歴史がありそうですよね。

      店主さん:ここは1945年に建て替えたんですけどね。店としては大正時代ですかね、もう100年近くここで商店をやってます。

      鈴木さん:じゃあ、お父さんもずっとこの島で?

      店主さん:うん、僕は昭和26年生まれですけど、このあたりは昭和30年くらいまでは花街というか、遊郭なんかがあったらしいですよ。私も記憶があんまりないんだけど。

      川路さん:でもそうしたら、お父さんが子どもの頃は、まだまだ賑やかだったんじゃないですか?

      店主さん:そうですねえ。この島は3つの町がひとつになったんですけど、ここ木江は、そのなかでは、まあ一番大きい町だったから。今はこの島全部で7,000人とかですか。でも昔は、この港のあたりだけで8,000人は暮らしていたらしいから。まあ、今はすっかり寂れてしまったけど、古い町並みの雰囲気だけはね。

      鈴木さん:ちょっとこの辺を歩いてみて、その雰囲気を味わってみますね。お忙しいなか、貴重なお話ありがとうございました。

        自然と人はつながっていて、だからこの町で暮らそうと思えた

        この日の街歩きはここで一段落。明日はバードウォッチングのために、朝から山を歩く予定です。早めに宿へ戻ることにしたふたりでしたが、夕食までのひととき、鈴木さんは川路さんにも、あれこれ話を聞いてみたいと言います。

        鈴木さん:移動中にちらっと伺ったんですけど、川路さんは東京で暮らしていたこともあったんですね。

        川路さん:大学生のときに、休学して2年ほど。最初は、友達6人で世界一周旅行に行くために、東京で働いてお金を貯めようっていう計画だったんです。

        鈴木さん:つまり、学生起業みたいな?

        川路さん:そんなに大それたものでもないんですけどね。ただ、結局はコロナ禍で世界一周どころではなくなってしまって。それでも、せっかくだから、もっとお金を稼ぐ力を身につけようと思って、6人でシェアハウスに住みながら、とある実業家さんの方のもとで、いろいろと勉強していたんです。いわゆる“書生”みたいな感じで。

          鈴木さん:そんなことしてたんだ……!でも、それでなんで広島に戻ってきたんですか?

          川路さん:あるとき、急に糸が切れたように疲れちゃったんですよね。でも「東京で一旗上げてやるぜ!」みたいなテンションで広島を出てきたから、戻るに戻れず……。一度実家に帰ったんです。走ったりするようになったのも、その頃ですね。とにかく現状を変えたいというか、何か前向きになれることがしたくて。

          鈴木さん:走ることが、ある種のセルフケアになっていたのかな。でも、そうか、それが今の朝活ランニングコミュニティの活動にもつながっているんですね。自然に興味を持つようになったのも、その頃ですか??

          川路さん:そうなんです。メンタルが安定して、大学に復学して広島に戻ったとき、武田山という山に登ったんです。そこから見える景色が、なんだかとても素晴らしいものに思えて。なんていうか、自然と人の暮らしのつながりを感じたんですよ。「これからもこの街で暮らそう」と決めたのは、そのときだと思います。

          土地にも人にも、それぞれの歴史があって、それはどこかで自然とつながっている。

          そんなことを思いながら、鈴木さんと川路さんの島での一日が静かに終わっていきました。次回は大崎上島の最高峰・神峰山で、ふたたび鳥たちの声に耳を澄ませます。

            interview
            泉水政輝(Shime inc.)
            writing
            中澤敦(合同会社ことりうみ)
            photograph
            田頭義憲(ウリボー写真事務所)

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