
【連載】あの人と、あの街で、歩きながら話すこと#3-3|神峰山の森のなかで、鳥たちの声に耳を澄ませて
広島市内で建設コンサルタントとして働きながら、建築家・デザイナーとしても活動する鈴木知悠さんが、川路高史さんとともに、大崎上島までバードウォッチングに。今回は、神峰山を歩き、鳥や自然と向き合いながら、これからの暮らしについて考えました。
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広島市内で建設コンサルタントとして働きながら、建築家・デザイナーとしても活動する鈴木知悠さん。そんな鈴木さんが、今いちばん気になる人と一緒に、広島県内のあちらこちらを歩きながら、これからの暮らしについて肩肘張らずに考えてゆく本連載。
アウトドアショップで働きながら、朝活ランニングコミュニティ「7hours club」を主宰する川路高史さんとともに大崎上島をめぐる旅も、いよいよ最終回です。
この日、朝から向かったのは瀬戸内海に浮かぶ115の島々が見渡せる神峰山。さまざまな命が息づくこの山で、バードウォッチングを楽しみながら、自然とじっくり向き合います。
朝霧のなか、生き物の小さな気配を追いかける
神峰山の標高は452.6メートル。決して高い山ではありませんが、普段からトレイルランに励む川路さんはともかく、運動不足の編集部一同には、麓からの登山は少々こたえます。そこでまずは、車で第二展望台まで向かうことにしました。
展望台からの眺めは、まさに絶景のひとこと。朝霧が立ちのぼるなか、瀬戸内の海と島々が、さはやかな光に照らされています。その景色に見とれていると、鈴木さんが早速、鳥の鳴き声に気づきました。
鈴木さん:このピィピィと鳴いているのは、イソヒヨドリですね。ほら、あそこの木の上に。
川路さん:ほんとですね!ここから山のなかに入っていくと、もっと鳥がいますかね?
鈴木さん:必ずしもそういうわけではないんですけどね。逆に電線とか電柱みたいな、ちょっとした人工物があるところの方が、鳥も住みやすかったりするので。人の生活圏に近いところの方が、エサも見つけやすいですしね。でも、せっかくだから頂上まで行ってみましょうか!
展望台から頂上までは、200メートルほど。木々が生い茂る山道を、ゆっくりと登っていきます。
鈴木さん:山でバードウォッチングをするときは、海や町でするとき以上に“耳”が頼りです。鳴き声が聞こえる方角がわかったら、少し広めの視野でそちらを眺めて、パッと揺れる葉っぱがないか、注意してみてください。あっ、この電子音のような鳴き声はヤマガラですね。
川路さん:そう言われてみると、不思議な鳴き声ですね。でも、どこにいるんだろう?
鈴木さん:今飛びましたよ!ほら、あそこの木のところに。
川路さん:あー、わかりました!いやあ、でもやっぱり難しいですね。
鈴木さん:でも、簡単に見つけられないからこそ、山でのバードウォッチングは楽しいんです。どちらから鳴き声がしているかわからないときは、片耳を塞いでみてください。その方が、音の方角がはっきりとわかるはずです。
五感を研ぎ澄ます時間は、あっという間に過ぎて
そうこうしているうちに、山頂へ到着。
鳥の声に耳を澄ませていると、次第にいつもより聴覚が冴えてきたような気がします。しばしバードウォッチングを楽しんだところで、「もしかしたら、もう少し山を下った方が、鳥がいるかも」と鈴木さん。一旦、展望台へと引き返し、そこからさらに林道沿いを下っていくことにします。
川路さん:またヤマガラが鳴いていますね。特徴的だから、すぐ覚えられる。
鈴木さん:慣れればほかの鳥の声も、すぐに覚えられますよ。僕もバードウォッチングをはじめてから、朝目覚めたときに、家の周りで鳴いている鳥の声がわかるようになって。「これはスズメだな」「こっちはシジュウカラだ」とか。
川路さん:それ、朝活とも相性よさそうですね!本気で探そうと思うとじっとしちゃうから、ちょっと運動量が足りないかもですけど(笑)。
鈴木さん:でもあるとき、朝起きたら聞き慣れない「ギャオギャオ」という鳴き声が聞こえてきたことがあって。「なんだ?」と思って外を見たら、隣のビルの上でオウムが鳴いていました。どこかから脱走してきたんでしょうね(笑)。
ふたりの笑い声が、木々のざわめきのなかに溶けていきます。さらに林道を下っていくと、少しだけ山の様子が変わってきました。
鈴木さん:ここからは森が広葉樹になっていますね。ちょっとひらけてきたので、鳥も見つけやすいんじゃないかな。あ、いますね。あそこの木の枝のあいだ。
川路さん:あ、いたいた。やっぱりさすがですね、まだまだ全然見つけれないですよ。
鈴木さん:ここはたしかに、ちょっと難しい場所だったかもですね。でも、川路さん、今めちゃくちゃ集中してる顔してましたよ(笑)。
川路さん:これは集中しちゃいますよ。時間があっという間に溶けていきそう。
川路さんの言うとおり、気がつけばもうお昼前。フェリーの出発も迫ってきました。大崎上島での旅も、いよいよ終わりが近づいています。港へと帰路を急ぐ車内のなかでは、山で過ごした時間の余韻が、静かに流れているようでした。
島の旅の終わりに考える、これからの暮らしのこと
帰りのフェリーのなかでは、大崎上島で感じたことを振り返りながら、おふたりの日々の「暮らし」について、あらためてお話を伺ってみました。
鈴木さん:そうそう、バードウォッチングをしている間はすっかり忘れてたんですけど、この連載は一応「暮らし」がテーマなんですよ。たとえば川路さんが、暮らしのなかで幸せを感じるのは、どんなときですか?
川路さん:寝ているときですね(笑)。というのは、冗談でもなんでもなくて。東京での暮らしでメンタルを崩したときに、睡眠の大切さを実感したんです。「7hours club」を立ち上げて、朝活としてのランニングをコミュニティ化したのも、もっと多くの人に睡眠の大切さを感じてほしいと思ったからでした。
鈴木さん:なるほどなあ。じゃあ、そんな川路さんにとって、暮らしとは?
川路さん:うーん、難しいですね。でも、コミュニティの活動をしたりするなかで考えているのは、自分の暮らす街に、少しでも新しい風を吹き込みたいということです。どうすれば、そこで暮らす人たちが今よりも街を誇れるようになるのか。街と自然のつながりを、もっと実感してもらうためには、何が必要なのか。明確な答えを持っているわけではありませんが、これからの暮らしのなかでも、それを考え、行動し続けていきたいと思っています。
鳥の声に耳を澄ませるなかで聴覚が冴えわたっていくように、自然と向き合うひとときこそが、私たちの日々の暮らしの輪郭をたしかなものにしてくれるのかもしれません。そんなことを考えているうちに、船はゆっくりと垂水の港へと入っていきました。
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